いわて地元学実践フィールド 台温泉 写真
温泉街を歩き、「お宝」を探す
 
実例 2
花巻市 台温泉 地図

花巻市 台温泉 温泉街の歴史と魅力を掘り起こす


地域の現況
 花巻駅から西へ約5km。花巻温泉の元湯として知られる歴史ある温泉街。約1200年前、坂上田村麻呂が疲れを癒したとの伝説が温泉神社に伝わるが、『湯本村史』(大正8年)によると、発見されたのは元中年間(1384〜1392)で、南部領のなかで最も早い開湯と記されている。現在、台温泉には、16軒の宿と1軒の日帰り温泉がある。 台温泉地区世帯数50戸、人口126人

台温泉親睦会
会長
小瀬川康久さん

台温泉親睦会会長 小瀬川康久さん 

 

●温泉街の賑わいを再び
判ごとに「野外点検」へ出発
 温泉は藩政時代、南部藩主やご母堂も湯浴みに訪れ、そのための御仮室が設けられていたという由緒ある名湯である。天保年間にはすでに40余りの温泉宿が軒を重ねる立派な温泉街が形成されていたといわれ、大正8年に発刊された『湯本村史』によれば、当時、「1カ年、浴客数8万人」だったと記されている。大正12年、台温泉を元湯とする花巻温泉が開業し、台・花巻温泉は、岩手を代表する観光エリアとして発展した。
 しかし近年は、集客力が著しく低下し、花巻市の観光客入り込みのうち台温泉にやってくる人の割合は、昭和50年に14%、平成9年には3%まで落ち込んだ。地域にとって、人口の減少、高齢化は差し迫った問題で、現在、小学生は2人しかいない。このように、元気のなくなった地域にとって、再生の道とは、温泉街の活性化のほかにない。「もう一度、足元から地域を見直そう。」と、県の「風の人派遣事業」(平成16年度)に申請し、地元学を実施した。

●「いつもそこにあるもの」が「お宝」に
 第1回の「台温泉・地元学」は平成16年11月17日に行われた。
 「風の人」として派遣されたのは、岩手大学農学部の広田純一教授とゼミの学生10人。地元学実践講座の受講生7人、地域の公共機関の職員5人。「土の人」として参加した台温泉の住人は7人だった。タイムスケジュールの確認と地元学の手法注意事項などの説明があった後、全体を6つに班分け。各班に以下のようなテーマが与えられた。
 1班=源泉探し 2班=神仏・石碑探し 3班・4班=お宝探し 5班=景観点検(景観として良いところ・改善を要するところを点検) 6班=外回り(温泉街周辺部)のお宝探し。
 言うまでもないが、「お宝」とは、金銭的価値のある貴重品のことではない。美しい、珍しい、面白い、懐かしい、由緒ある、その他自分が関心を引かれたすべてのもののことで、「これなに?」「なるほど」と思ったものすべて「お宝」である。
 各班は自己紹介の後、写真係、マップ記録係など役割を決めて、いざ、お宝探しへ出発。あいにくの小雨模様だったが、わずか500mほどの温泉街を2時間かけてていねいに点検して歩いた。数人のグループになって歩くことによって、自然な会話として意見交換がなされていくことになるのも、地元学の良いところである。
 たとえば、大学生があるポスターを見つけて「昭和レトロでいいですね。」と言うと、「土の人」は初めてそのポスターに気づいたかのように「はあ、そんなもんかな」と首をひねる。あるいは、川に放置されている浴槽のようなものを見つけて「風の人」が「あれ、何ですか?」と尋ねると、「みのなんかを作るためのワラや麻を煮るために使ったものです。」と答える。するともう1人の「土の人」が「昭和24、5年頃までは使っていたんじゃない?」と補足する。このようにして、「いつもそこにあるもの」が、何かの意味や背景を与えられ、初めて「お宝」に変わっていくのである。
 また、山の神の碑では、「私が嫁に来て50数年になるけど、初めて見に来ました。」と興味深々の人もあった。一つ一つ検証しながら歩くことで、家からたった数百mの距離にあるものさえ「知らない」ということを「土の人」はあらためて実感するのである。

●源泉が23ヵ所もある!  
宿の軒先に「温泉卵ができます」の提示 「土の人」にとって当たり前のことで、「風の人」にとって驚きだったのは、台温泉には源泉が23カ所もあるということだった。しかも湯温が高く、どこも70℃〜98℃くらいはある。ある温泉宿の軒先には、甕(かめ)に源泉が注がれていて、「生玉子を入れておけば温泉玉子ができます」といったユニークな掲示もある。また、「薬師の湯」は、神社にお湯が湧いているという霊験あらたかな温泉なのだそうだ。
 温泉の豊かさに感心する「風の人」の興味に応じるように、親睦会会長の小瀬川康久さんが当初の予定にはなかった「お宝」を教えてくれると人を集めた。温泉街の南斜面にある沢を登りだすこと20分ほど。小瀬川さんが黄褐色の地面を掘ると、お湯が湧きだしてくる。透明なお湯は空気に触れるや否や赤褐色に変色した。昔は沢沿いに「血の池」があったそうで、この池が赤くなると人が亡くなるという言い伝えがあったと小瀬川さんは話してくれた。また「知りたかったら自分の足で歩くこと、自分で見つけようとする努力をすることも大事。」と、地域づくりの姿勢について語った。

●「街」としてのイメージづくり

点検で見つけた「お宝」を資源カードに記録
1人1人ずつお薦めの「お宝」を発表

 コーディネーターの広田教授は、台温泉の魅力について次のように話している。
「景気の悪さが影響して、台温泉はかつての賑わいを失っています。しかし、温泉街の規模が程良いことや、いい具合に昭和っぽさが残っていることから、ある方向でイメージづくりをすれば、台温泉らしさを出すことができると思います。街全体のイメージづくりは、個々の宿の努力ではどうにもならないことですので、住民みんなで考えていくきっかけとして地元学が生かされていけばいいな、と思います。」
 広田教授が今回の地元学を通して見えてくるであろう台温泉の魅力を4つにまとめた。

1. 源泉が多い。しかし今はそれが見えなかったり、景観が悪かったりするので、「源泉を見せる工夫」をしてはどうか。
2. 街がいわば人間サイズ。浴衣姿で温泉街を歩くのにちょうどいい広さ。
3. 新緑や紅葉などの美しさ。カジカガエルや珍しい野鳥、山野草もあって温泉街に自然が豊富に残っている。
4. 交通アクセスがいい(花巻インターから車で約10分)。

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平成16年度の地元学は1回のみの開催であるが、現在、参加者のアンケートをもとに、来年度の活動について話し合いが進んでいる。