いわて地元学実践フィールド 近代製鉄業の父・大島高任が銑鉄を製造した日本最古の洋式高炉跡
近代製鉄業の父・大島高任が銑鉄を製造した日本最古の洋式高炉跡
 
実例 4
釜石市栗林町・橋野町

釜石市栗林町・橋野町 地元学の基本を学ぶところから


地域の現況
栗林・橋野地区は、釜石市の北西部に位置し、江戸時代から沿岸部遠野など内陸部を結ぶ公益の中継地だった。橋野は、安政5年に洋式高炉が建設され、明治・大正は鉄のまちとして栄えた。栗林は農業を主体とした地域で、かつては2軒の製糸工場があったほど養蚕が盛んだった。
栗林地区 世帯数 251戸、人口 824人
橋野地区 世帯数 235戸、人口 597人
(平成17年1月末日現在)

橋野町
振興協議会
会長
八幡登志男さん

橋野町振興協議会会長 八幡登志男さん

 

●釜石の礎を築いた近代製鉄発祥の地
 釜石市では、第5次総合計画の基本構想(平成12年6月策定)で「鉄の歴史と環境を生かす地域づくり」を重点施策として位置づけている。釜石市は、近代製鉄業の父・大島高任が初めて銑鉄の製造に成功した地である。平成13年が大島高任の没後100年にあたることから、市では、釜石の歴史、文化、自然環境などを固有資源としてあらためて見直し、その活用を検討することとなった。
 地域の固有資源を再認識し、地域づくりに活かそうという取り組みは、市が実施するエコミュージアム構想推進事業にも生かされる。エコミュージアムは、博物館という施設に資料を集めて展示するのではなく、地域の環境をそのままの状態で残し、見学者はその地域を実際に訪れて見学や体験をするという考え方である。構想策定に向けて、検討委員会(委員長・小野寺英輝岩手大学工学部助教授)が平成12年9月に発足している。
 「釜石型エコミュージアム」の形成に向けての地域資源調査の手法として「いわて地元学」方式が用いられ、その実践が、栗橋地区(栗林町・橋野町)で行われた。栗橋地区は、大島高任の指導により建設された橋野高炉の遺構が残る釜石発展の根幹の地なのである。

●文化財ツーリズムで理解を深める

文化財ツアーで訪れた三浦命助の碑
文化財ツアーで訪れた三浦命助の碑
水の経路と暮らしの関係を地元の人に尋ねる
水の経路と暮らしの関係を地元の人に尋ねる

 栗橋地区での地元学実践に先立って、市民の参加を募り栗林・橋野両町の文化財を訪ねる文化財ツーリズムを実施した。近代製鉄業の父・大島高任ゆかりの地の市民に、地元の歴史文化遺産に親しむ機会を提供しようという試みである。平成12年9月24日。当日は、あいにくの雨となったが、参加者は案内者である藤原熊男さん(釜石文化財保護審議会委員)の話に熱心に耳を傾けていた。
 コースは以下の通り。(1)明神かつら(釜石市指定文化財)〜(2)三浦命助の碑〜(3)沢桧鉱山山神社〜(4)瀧澤神社奥の院〜(5)牧庵鞭牛隠居屋敷跡(釜石市指定文化財)〜(6)古里嘉惣治・小屋野三十郎碑〜(7)橋野高炉跡(国指定史跡)〜(8)林宗寺〜(9)中村判官堂〜(10)御神楽杉(釜石市指定文化財)。
 そしてその翌日(9月25日)から地元学の実践が始まった。地域資源調査は、栗林地区、橋野中村地区、橋野横内地区、橋野沢桧地区の4班に分かれ、「あるものさがし」と「水の行方」をテーマにした。
 11月5日〜6日には「地元学in栗橋パート・」を開催。前回同様に班分けし、「水の行方」のほかに「くらし」にも着目。農作業をしている人や、郷土料理(団子や漬物など)を作っている人、昔の地域のことを知っている人など、地域の人への聞き取りを行った。また、かつて沿岸と遠野をつなぐ塩の道として往来のあった大槌街道(地元では和山街道という)まで足を伸ばした調査班もあった。
 12月1日〜2日に開催された3回目は、まとめ作業。「水のゆくえ」は地域ごとに4つのマップが作成され、ほかに気づいたテーマ、取り組みテーマを決めて、大きな模造紙にまとめていった。テーマは以下の通り。
 「横内・古里の屋号」「横内・古里の住まい方/暮らしあれこれ」「じいちゃん、ばあちゃんの知恵〜水にやさしい生活」「八幡さんちの水事情」「橋野を食べる」「木・草の使い方」「栗橋分工場とカナホッパ(金掘場)」「橋野の石工」「大槌街道(塩の道)」「焼山と焼畑」「自然神・神社、寺、大きな木」「遊びの歳時記」「暮らしの風景」「住まい・住まい方」「人が元気・いろんな名人」

●発表会では吉本哲郎さんの講演も  
吉本哲郎さんから指導を受ける参加者 翌3日には、小野信一釜石市長(当時)を迎え、延べ6日間に及んだ地元学の発表会を行った。
 地元学の手法を用いて、地域をどのように考えるのか。地域とはどうあるべきなのか。調査結果の発表の後に、「橋野に学ぶ〜地元学とは〜」というテーマで吉本哲郎さんの講演が行われた。水俣の事例を交えての講演の中から、地元学によって考えるべきことについて、内容を要約して、以下に紹介する。
 「考えるとは、事実に驚き、それはなぜだろうと深く考えること。水俣では、水俣病で破壊された地域の人々の関係を改善するために4つのことをやった。(1)距離を近づける。(2)話し合う。(3)対立を創造のエネルギーに変える。(4)互いの違うことを認める。」
 「地元学の特徴は、やってみなければわからないけれども、やってみたらこんな工夫がある、こんなやりかたがある、と気がつくこと。橋野では橋野の地元学があり、陸前高田では陸前高田の地元学がある。」
 「自然、環境、産業や生活のバランスのとれたいい地域の条件とは何かを見定める必要がある。では、いい地域とはどんな地域か。宮城県仙台市で地元学を実践する結城登美雄さんは次のようにいう。(1)海、山、川などいい自然があること。(2)いい習慣があること。(3)いい仕事があること。(4)少しのお金でも笑って暮らせる生活技術を教えてくれる学びの場があること。(5)住んでいて気持ちがいいこと。(6)自分のことを思ってくれる友達が三人はいること。」

●資源カードのデータベース化へ
テーマ別資源マップは15枚に及んだ  栗橋地区の地元学の後、平成13年3月に釜石市はエコミュージアム構想を策定。唐丹(平成13年9月)、甲子西部(平成14年10月)、甲子東部(平成15年10月)で、地元学を開催した。釜石市では、これらの地域資源カードをデータベース化。栗橋地区を含む各地区で地域資源パンフレットを作成した。また、大島高任の没後100年に合わせ、関連事業として「鐵を究める」パンフレットの作成にも活かされた。
  栗橋地区では、地元学が終了して間もない平成12年度に、橋野町片葉山を水源とする大仁田鍾乳洞の湧き水を詰めたミネラルウォーター「山華(さんか)」を商品化。水の豊かさを地域の特徴として打ち出した。栗橋地区には、平成10年に発足したA(agriculture)&F(fishery)グリーンツーリズム実行委員会のメンバーも多く、交流人口の増加によって地域に活気を呼んでいる。