いわて地元学実践フィールド
地域を歩き、地元の人から歴史などの話を聞く
地域を歩き、地元の人から歴史などの話を聞く
 
実例 6
葛巻町岩手県立葛巻高等学校

葛巻町 岩手県立葛巻高等学校 「総合的な学習の時間」に地元学を


葛巻高校の校舎
葛巻高校の校舎
県立葛巻高等学校(全日制普通科)の現況

平成14年4月から葛巻地区中高一貫教育を実施。町立葛巻中学校、小屋瀬中学校、江刈中学校と教員の相互交流、部活動や特別活動の連携などを行っている。平成11〜13年度、岩手県教育委員会の「総合的な学習の時間」調査研究協力校に指定されたことを受け、郷土理解と郷土への貢献を考え、国際社会に貢献できる人間の育成をめざし、その取り組みの一つとして地元学を取り入れた。

 

●「生きる力」を育むために
  新学習指導要領による「総合的な学習の時間」が平成15年度から高校教育にも導入されるのに先立ち、葛巻高校は平成11〜13年度、岩手県教育委員会の「総合的な学習の時間」調査研究協力校に指定された。そこで同校は、入学から3年間で段階的にふるさとについて調べ、考える「ふるさとの時間」を設けることとした。1年次は「葛巻の自然と私たち」、2年次は「葛巻のひとと私たち」、3年次は「葛巻の未来と私たち」をテーマとし、このうちの2年次の学習の一部に、平成14年度から地元学が導入された。
 高校を卒業すると町外へ出て行く生徒が多い葛巻では、高校生という多感な時期にこそ、ふるさとを知ることに意義があると考えた。「生徒が地域に対し、マイナスイメージを持ち、将来についても悲観的である状況を打破し、自己のアイデンティティを確立させ、生き方・あり方を考えるきっかけにすることを目指す。また、知識・情報の受け手である姿勢を脱却し、地域の中で実際に実践し、働きかけていくこと。」を目的とした。

●自治会が全面的に協力
豪雪地帯特有の屋根のかたちをした小屋  「くずまき地元学」を初めて導入した平成14年度は、同町で活動するエコスクール「森と風のがっこう」の共催で行われ、代表の吉成信夫さんが講師を務めた。実施日は8月21日・22日の2日間。1日目がフィールドワーク(集落点検)、2日目をワークショップ(まとめ作業)に充てた。参加者は、高校生85人。大学生(岩手大学、岩手県立大学、国士舘大学、日本大学、名古屋大学などから「森と風のがっこう」のネットワークを通じて参加)24人、地域住民が15人、それにスタッフや職員など13人ほど加わり、町を上げての取り組みとなった。地域住民の参加は、各地区の自治会に全面的な協力を得た。
 調査区域ごとに10班に分かれ、各班は、高校生8〜9人と大学生2〜3人、地元住民1〜2人、スタッフ等で構成され、その中で、リーダー、記録係、カメラ係、地図係、案内係など役割分担を決めて出発した。
 2日目は参加者全員が体育館に集合し、資源カードの整理とグループ討論。討論に基づき、地域のテーマ性を意識しながら資源マップを作成。午後に全体発表が行われた。

●「地元なのに知らないこと」に気づく
地元の人から裂き織りを教わる 授業後、生徒たちが感想文を書いている。以下、抜粋を紹介したい。
 「ふり返ってみれば自分の地元なのに知っていたことが一つもなかったことが意外というか不思議でした。」
 「おばあさん達が、さきおりをやろうと思ったきっかけが、老後をさみしくなく、みんなと楽しく過ごし、集まってやりたいということでした。(中略)楽しくできるさきおりの話を聞いたこと。それが一番印象に残りました。」
 「今まで能率が悪いという点で、自分の中で少し見下した見方をしていた昔の農具や道具の良さが分かり、見方が変わりました。初めはやっても意味がないと思っていた地元学でしたが、大学生の方が驚くのを見て、普段何気なく見ていた物のめずらしさや大切さ、(中略)昔の農具の素晴らしさを学び、本当に良い体験だったと思いました。」

事業名 株式会社こめかみ(遊)
趣旨 みんながいやしや開放感を求めている
場所 主催 役場 対象 全国の人
活用する資源・素材・商品など 気球、牛乳、やまぶどうなど
活動内容 気球を使い季節のものを見せる。森風体験。キノコとり(秋)。チーズ・バターづくり。へっちょこだんごづくり。山ぶどうケーキづくり。
実施期間 春夏秋冬各1回
経費・予算 1回5,000円程度、宿泊代、燃料代、体験の材料代、食費、自分たちの利益

 翌15年度、3学年になった生徒たちは、ふるさとの時間「葛巻の未来と私たち」として、地元学の経験を基に、「より良いまちづくりへの提言」を行った。ふるさとにあるポテンシャル(資源)と実社会へのマーケティング(需要)と分析した上で、どんな事業ができそうか、ふるさとの未来への自分たちの思いを企画書という形で表した。葛巻町生涯学習課課長の高家卓範さんを学校に招き、生徒たちが班ごとにプレゼンテーションという形式で発表した。提言の内容からは、生徒たちが具体的に考え、話し合い、一人ひとりの意見を生かした様子がうかがえる。以下に一例を挙げたい。

●ワークショップの副産物
調べてきた資源を整理し、マップづくりへ
調べてきた資源を整理し、マップづくりへ
地域のテーマを見つけ、まちづくりのアイデアを発表
地域のテーマを見つけ、まちづくりのアイデアを発表

 本来の目的である「地域を知る」という点で、生徒たちが「地元のことを知らなかった」ということに気づいたという成果が挙げられる。では、なぜ高校生が地元のことを知るべきなのか。伊東孝浩教諭は、実践を通して気づいた地元学の利点について次のように話した。「学生たちがこれから町外へ出て、あるいは海外に行って、さまざまな経験をする時、ふるさとの文化という『基準』を持っていてもらいたい。今、『自分探し』に迷い込むフリーターやニートと言われる若者が増えていることの背景には、どこへ行ってもその場所が好きになれないという価値基準の定まらなさがあるのではないか。ふるさとという文化基準を持つことで、基準からものを考えることができるようになると思います。」と、巣立っていく生徒たちへの願いを込めて語った。
 さらに、フィールドワークやワークショップの副産物として、うれしい発見もあった。一つは、大学生の存在である。「生徒たちにとって大学生は、年齢的にはちょっと大人なのに、すごいことができる人。近未来を準備する時期の生徒たちにとって良い刺激になったようです。」また、日常の授業とは異なるワークショップは、生徒たちのコミュニケーション能力を高めた。「グループで動ける体制が自然に生まれていったのは、生徒たちの潜在的な力だったと思います。自分の役割に気づき、あるいは、相手の話を聞こうとする姿勢が見えるようになり、その後の修学旅行などにも生かされていました。これこそ『生きる力』の芽生えと言えるのではないでしょうか。」と、伊東教諭は話す。
 平成15年度、16年度も2学年を対象に、2日間の地元学を実施。時間の限られている「総合的な学習」カリキュラムの中でどれだけ有効に地元学を取り入れていけるかが今後の課題となっている。