いわて地元学実践フィールド 地域を歩いて「何をしているんですか?」と仕事を尋ねる
保存復元された谷内村農会館(旧谷内村役場)
 
実例 7
東和町谷内・鷹巣堂地区
東和町谷内・鷹巣堂地区 地域をまるごと博物館に


地域の現況
東和町役場のある土沢地区から国道283号を遠野方面へ車で10分ほど走ったあたりの猿ケ石川の南側に位置し、棚田や果樹園のある山里らしい風景が広がっている。国の重要文化財に指定されている旧小原家住宅をはじめ、1500年の歴史を持つ荘厳な丹内山神社など歴史文化財の宝庫としても知られている。
世帯数 142戸(平成17年1月現在)
人 口 549人(平成12年国勢調査)

田園空間整備事業
推進委員会
会長
(平成13年度まで)
菅野馨さん

田園空間整備事業推進委員会会長(平成13年度まで) 菅野馨さん

 

●基本計画づくりから住民が参加
年間約4000人が訪れる旧小原家住宅 東和町ではエコミュージアムの理念を取り入れた農林水産省の補助事業「田園空間博物館整備事業」(平成10年度〜15年度)を導入し、新しいかたちの農村整備が行われた。整備計画は、町を小学校区ごとに6つの地域に分け、各地域に総合案内所機能を持つサブコア施設を設置し、農業文化に関わる伝統的施設(水路や水車小屋など)をサテライト施設(展示施設)として保存・復元し、これらの施設を結ぶフットパス(田園散策の道)を整備するというものである。事業の大きな特徴は、基本計画の段階から住民が参加し、整備後の施設の運営・管理も住民が主体的に行っていくというところにあった。
 平成11年度、田園空間整備事業の基本計画を策定するにあたり、地区ごとに1〜2回のワークショップが実施された。「伝統芸能」「イベント」「名所・旧跡」「農産品・伝統食品」「人物」「その他」の項目ごとに地域資源を洗いだし、これらをもとに、事業についての意見や要望を出し合った。谷内地区では、ワークショップを参考に、サブコア施設(コミュニティー施設)として旧谷内村役場(昭和7年建築)を保存復元することと、サテライト施設として水車小屋と石積み水路を復元し、さらに伝承工房館を新たに設置して旧小原家周辺の農村景観整備を進めることが基本計画に盛り込まれた。

●資源マップと道標を作りたい
 旧谷内村役場の保存復元や、旧小原家の周辺整備が町によって進められるなか、谷内地区では、独自の田園空間整備事業推進委員会(田空委員会)を設け、平成12年度には、フットパスの計画づくりに取り組んだ。田空委員会は、地区内にある9つの行政班から3人ずつの委員を選出し、それに自治会の会長、副会長、事務局長の3役を加えた30名で構成され、計画づくりの方法は、岩手大学農学部広田研究室(広田純一教授)に指導を依頼。いわば「持ち寄り型」の地元学ワークショップを行った。
 地元学による地図づくりに携わりながら、地域資源の由来などについて知っている住民が少ないことや、所在地までの道がわかりづらいなどの課題が明らかになり、「地域資源マップと道標を作りたい。」という意見が上がる。そして平成13年度、町の田園空間博物館整備事業の計画にはない、谷内地区独自の活動を取り入れることになった。
 「旧小原家住宅を訪れる年間4000人の来訪者に対して、地図や道標があれば地域を紹介しやすくなりますし、また、自分の地域のことをあまり知らない地域住民に対しても、旧小原家住宅だけでなく素晴らしい宝が地域にたくさんあるという意識が自然に浸透していくのではないかと思いました。」と、田空委員会の菅野馨会長は経緯を話す。
 問題は、マップと道標を作る資金をどこから捻出するかだった。町職員からの情報を得て、自治会がおこなうユニークな活性化事業に対して補助金を支給する町単独の「ふるさとづくり推進事業(通称・ユニーク事業)」に「谷内地区地域再発見推進事業」として申請し、受理された。地元学の指導にあたった岩手大学の広田純一教授は、「平成13年度に入ってからの活動は谷内の皆さんの本領発揮でした。もう私たちが(指導に)来なくてもいいくらいでした。」と、その自主性を高く評価している。

●「食」と「人」の地元学へ  

伝承工房館で「こびる作り」を体験する修学旅行生
伝承工房館で「こびる作り」を体験する修学旅行生
「塞の神杉生松」の前に道標を設置し、記念撮影
「塞の神杉生松」の前に道標を設置し、記念撮影
平成14年の山野草クッキングツアー
平成14年の山野草クッキングツアー

 谷内地区においては町の田園空間博物館整備事業による施設整備も平成13年度で完了した。旧小原家周辺の農村景観整備では、平成12年度に実施された水車小屋と石積み水路の復元に続いて、平成14年3月に、谷内伝承工房館が完成した。体験施設として旧小原家住宅に隣接して新築されたもので、わらや竹細工、そば打ちなどの体験を想定して設計されている。さっそく修学旅行を受け入れ、「こびる作り体験」などが行われた。
 また、ほぼ同じ時期に田園空間博物館整備事業においてコミュニティー施設と位置づけられた谷内村農会館も完成した。谷内地区の歴史の原点である丹内山神社の参道のすぐ横に位置し、旧小原家住宅の周辺とともに、いわば谷内地区の「見どころ」エリアが整ったことになる。
 平成14年6月には、東和町グリーン・ツーリズム運営協議会が主催する「山野草クッキングツアー」が谷内地区で開催された。同協議会の主催となってからは3年目だが、町が主催していた頃から数えると14年目を迎える人気のイベントで、首都圏からの参加者やリピーターも多い。山野草を採取した後、旧小原家住宅の前庭で、金津流丹内獅子踊を鑑賞し、踊り手と記念写真を撮り、自分たちで作った山野草料理を食べながらの懇親会はまるで旧知の人々の集まりであるかのように温かい雰囲気だった。
 田空委員会の小原宏副会長は、「マップにある地域の宝を保存していくことはもちろんですが、古いものだけでは地域は停滞し、過疎化していきます。観光面だけでなく、若者の働く場所の確保や農業のための区画整理などについても住民が意見を出していかなければなりません。住民に活気があってこそ、いい地域だと言えるのだと思います。」と話す。地元学は、宝探しをしただけでなく、住民が自分たちの地域について真剣に話し合うきっかけを創出したのかもしれない。

●子どもの居場所づくり事業の拠点に
 現在、谷内伝承工房館は、地域住民35人と自治会役員で組織した管理運営委員会が事業計画を立て、運営している。「クラフト」「食」「歴史・史跡」の3つの分科会があり、事業の展開のためにもインストラクターの要請が急がれている。
 平成16年度から文部科学省が推進している「子どもの居場所づくり事業」においての活動として機能。学校が休みの日に地域の子どもたちが集まり、そばうちや団子づくりなどの料理体験、竹スキーや竹トンボづくり、しめ縄づくりなどを行い、伝承活動を通じた世代間交流が盛んになったことを特記しておきたい。