いわて地元学実践フィールド ゆっくり歩いてじっくり見るのが地元学(島越地区)
ゆっくり歩いてじっくり見るのが地元学(島越地区)
 
実例 9
田野畑村全村6学区
田野畑村全村6学区 心ふれあう創造の村たのはたをめざして


 
地域の現況
田野畑村:岩手県北部沿岸に位置し、南と西側は岩泉町に、北側が普代村に接し、東は太平洋に面している。東西に約17キロ、南北に14キロほどあり、面積は156平方キロ余り。村のほぼ中央を南北に走る国道45号を境に、西側は内陸型、東側は沿岸型の気候。ヤマセ(冷たい北東風)など太平洋の影響を強く受ける。人口約4500人。農林水産業を核として、これに観光産業を結びつけた経済活性化対策を推進。平成11年に財団法人日本交通公社が公表した全国観光資源評価で、国内の海岸線で唯一「特A級」に格付けされた景勝地「北山崎」がある。
机郷友クラブ
向井泉会長

○田野畑村役場
企画観光課

岩手県下閉伊郡田野畑村田野畑143-1
電話/0194-34-2111(内線58)
机郷友クラブ 向井泉会長

 

●地域の元気は地域が創る
 田野畑村が、地元学に取り組むことの背景には、村が策定した総合計画に掲げられた理念がある。総合計画には、「『参加・協働・創造』による村づくりを基本理念として、『人』『環境』『安心』『交流』を視点とした新しい村づくりを推進し、『人と自然が輝き 心ふれあう創造の村・たのはた』を基本目標とする。」と記載されている。この基本理念を具体化する一つの方法として地元学の取り組みが始まった。
 取り組みの根底にあるのは、地域の元気は地域が創るという自立の精神である。また、地元学で行う地域点検の手法が、「総合的な学習の時間」への応用が可能ではないかという発想がある。加えて地元学の取り組みは、村が進めているレインボーツーリズムという観光交流人口の増加を図る施策のなかで、地域点検により再発見される地域資源を新たな「たのはたの魅力」として情報発信しようという試みでもある。

●1年間で全学区を地域点検
元気いっぱいの子ども班  田野畑村での地元学の特徴は、小学校区全6学区を実践地域としたことだ。地元学の手法を子どもたちにも伝えたいという大人たちの希望があったからだという。日常の暮らしの中で一緒に遊ぶことはあっても地域の話を子や孫に話して聞かせる機会はめったになかったという。田野畑村がどんな所かを最も新鮮に感じ取ってくれるのは子どもたちなのではないか。子どもたちに田野畑村の今と昔を伝えたいという大人たちの思いが、全学区での資源調査を可能にした。
 問題は、一つの学区の範囲が歩いて廻るには広すぎることだった。総面積156平方キロの84%を山林原野が占める村の集落は、国道45号周辺を除いて点在している。全地区をくまなく歩くのは到底不可能だった。地域自治振興会、教育委員会、役場職員が協議を重ね、最初の1年は、まず地元学の手法をみんなで理解することから始めようということになった。時間の許すかぎり歩き、無理せず地元学とは何かを体験できれば良しとした。
 それでも始まってみれば地元の熱意が人を動かし、1年かけてとうとう全地区の地域点検を終えてしまった。地元学をやってみて、大人も子どもも地域を歩く楽しさを実感したのだった。

●テーマ別地元学の取組み
地域の食の豊かさを堪能する「風の人」たち  「たのはた地元学」には、自治振興会主催の「お宝さがし(地域資源調査)」の取り組みのほかに、全村を対象にしたテーマ別地元学の取り組みがある。村では、平成14年度のテーマに「食」を掲げて、地域婦人会からの聞き取り調査に基づく取り組みが進められた。
 テーマ別地元学の初めに「食」への取り組みを決めた背景には、ささやかにではあるが続いている「キッチンたのはた」の取り組みをより確かなものにしたいという村民の意向があったからだ。「キッチンたのはた」は、地元の食材で地元の料理をつくり、村外へ「たのはたの魅力」をアピールしようというもの。海の幸があり、山の幸がある田野畑村は、豊かな食の環境をもっていた。ただ、地域の人々には、当たり前のことで自慢でもなんでもない。その当たり前のことに驚いたのは、地元学に参加した村外の人たちである。各地区のお宝探しの日に地域婦人会がつくる郷土食の豊かさや知恵や工夫に「外の人(風の人)」たちから感動の声があがった。地元の日常の生活で食べる料理が魅力なのだった。
 この「食」をなんとか守りたい。かつての懐かしい郷土食を孫に食べさせたい。そんな思いが集まってテーマ別地元学「食」の取組みは、単なる食の調査から、「たのはた食の文化祭」へと発展していった。

●「たのはた食の文化祭」
食の文化祭には、村内外から多くの人が訪れた  「食の文化祭」を実現させたのは地域婦人会である。「風の人」が称賛しても、村全域の「食」の取組みとなると誰もが半信半疑だったという。本当に文化祭など出来るのだろうかという心配は杞憂に終わった。平成14年12月8日、村の商工会主催の「青空市場」との併催で開催された。「青空市場」は、第40回を数える地産地消の催しである。商工会の協力が大きな支えとなって開かれた「たのはた食の文化祭」には、村内全域の婦人会のみなさんが持ち込む家庭料理や郷土食約300食が展示され、その一部は試食に提供された。
 平成16年、第3回を迎えた食の文化祭は、より地域に密着した地域活性化へ結びつけるために、村内の各地区ごとの取り組みへと発展した。一堂に並べて楽しむことから一歩前へ進んで、それぞれの地区にお客様を迎えようという取り組みが始まっている。食の文化祭でみつけた楽しさを集落みんなにも伝えたいという思いもある。婦人会の結束がいよいよ発揮されるためにも地域集落でお客様を迎えることに意味があった。いつでも誰でも参加できる仕組みが生まれ、婦人会の力量の高さは、村が進めているレインボーツーリズムの観光交流に一役も二役も担うに違いないと、地域の期待を集めている。

●住民主導で始まった番屋プロジェクト
机郷友クラブが保存活動に取り組む机漁港番屋群  たのはた地元学から生まれた活動に「机浜番屋プロジェクト(仮称)」がある。地元学第一回目の開催地である机地区のお宝として、風の人の注目をあつめた番屋(漁師の道具小屋)を地域活性化の資源として守り育てようという取り組みが始まった。
 活動の主役は、机地区の青年会である。「地元では、あんなもの壊したらどうかという声まであったが、地元学で外の人からすばらしいという声を聞いて、そうだこれが自分たちの原点だと気がついた。子どもたちのためにも、自分たちの郷土の誇りとして伝統を守ろうと思った。」と語る机郷友クラブの向井泉会長。
 机漁港の番屋群の保存は、ただ建物を守ろうということではない。青年たちでは知りえない漁師の伝統の暮らしを古老から聞き、古くから使われ大切に保存されてきた道具を調べて歩いて記録に残し、文化の継承に少しでも役立ちたいという取り組みである。
机郷友クラブは、平成17年1月、伝統漁法に使われる漁師の道具をあつめて展示番屋を開設し、番屋見学会を開催した。