いわて地元学実践フィールド 絵図に描かれている山王窟方面
絵図に描かれている山王窟方面
 
実例 12
一関市本寺地区
一関市本寺地区 歴史的景観の保存と暮らしやすさの調和を目指して


地域の現況
中尊寺に保存されていた中世の絵地図「陸奥国骨寺村絵図」2枚が平成7年に国の重要文化財に指定された。骨寺村は、中尊寺の経蔵別当が経営していた荘園であった。「経蔵」は一切経の経典などを納めていたところで、「別当」とは統括者のことである。この絵図に描かれているのが、一関市厳美町の本寺地区。東北自動車道・一関ICから国道342号を西に約19キロ、栗駒山(1627m)を水源とし、東流する磐井川の流れの途中にある農村地帯だ。
本寺地区世帯数120戸 約450人
本寺地区
地域づくり
推進協議会
会長の
佐藤武雄さん
本寺地区地域づくり推進協議会会長の佐藤武雄さん

 

●中世の荘園景観を今に伝える里山
 平成5年、奥州藤原氏の興亡を題材としたNHK大河ドラマ「炎立つ」が放送され、東北の歴史が大きくクローズアップされた。一関市本寺地区は、中尊寺大長寿院に伝蔵されていた「陸奥国骨寺村荘園絵図」に書かれた荘園遺跡であり、中世の時代「骨寺村」と呼ばれた集落である。地区内に伝わる骨寺堂跡が中尊寺の前身だという言い伝えもあり、地域の歴史を見直そうという気運が盛り上がり、同年、地区の有志で「美しい本寺推進本部」が結成された。
本寺地区の景観は、絵図に描かれた中世荘園の面影を現在まで引き継いでいる。近年、地域全体が歴史的に貴重な遺跡であるとして、研究者から注目が集まっている。そのひとり、國學院大學の吉田敏弘教授は、大学院生時代から本寺を調査対象とし、骨寺を研究してきたこともあり、地区の調査活動にも積極的に協力を行っている。
 現在も本寺地区は、稲作を中心とした農家が多い地域だが、稲作への取り組み方は、もちろん中世の時代とは違う。地域の歴史に対する注目度が増していくことを喜びながらも、貴重な遺跡の保存と自分たちの生活を維持していくための基盤づくりの両立は、本寺地区の住民にとって大きな課題となっていった。
 そこで一関市は、平成9年に地元住民の代表と有識者による「中世骨寺村荘園遺跡整備委員会」を結成し、本寺地区の整備のあり方について検討を続けている。委員長は國學院大学の吉田教授で、副委員長は、地元学フィールドワークでおなじみの岩手大学農学部の広田純一教授であった。
「陸奥国骨寺村絵図」の複写(一関市博物館) 「陸奥国骨寺村絵図」の関連展示を行っている一関市博物館では、遺跡の全貌が明らかになっていくにつれ、「平成11年度から本格的な調査が開始されました。絵図に載っていたものとは断定できないものの、確かに建物跡が確認でき、常滑の焼き物、かわらけ(素焼の食器の破片)なども出土しています。本寺の皆さんも発掘に参加しており、再認識していただいているようです」と地元の関心が高まってきていることを話す。
●地元が組織した世話人会が呼びかけ

平成14年11月23日に行われた地元学「本寺地区のお宝さがし」のようす
平成14年11月23日に行われた地元学「本寺地区のお宝さがし」のようす
本寺地区で最も古いと伝えられる水田
本寺地区で最も古いと伝えられる水田
プロジェクターで投影しながらの発表会
プロジェクターで投影しながらの発表会

 荘園遺跡整備委員会で検討の末、風景や暮らしを残しながらのほ場づくりなど、将来の本寺を考えた地域づくりが必要と報告された。これらの課題に取り組むため、本寺地区でも、地元をもっと知りたいという動きが出てくる。一関市では、地元の盛り上がりを支援しようと、平成14年から地域推進活動をスタート。地元とともに「本寺地区お宝さがし」事業に取り組んでいる。
  "平成14年11月23日、参加者が一関市厳美町本寺の生活改善センターに集まった。午前9時から一関市と一関市教育委員会の主催で行われた地元学のタイトルは、「身の回りお宝カード作成事業」。このカード作成事業には、地元の「身の回りお宝カード作成事業本寺地区世話人会」が協力した。
同世話人会は、本寺地区の将来のために、どういう道を探ったらいいか、地区内外の人たちと地元学調査を通じて、本寺の風土と暮らしを理解し、個性を見直し、考えてみようと結成された。参加者募集のチラシでは、「子どもから大人まで、みんなの力で改めて地域を見直しながら、キラキラする未来の本寺を目指しませんか。」と呼びかけた。
 この日参加した地元の人たちは56名。これに博物館と農地林務課の職員、さらに指導にあたった岩手大学・広田教授の研究室の学生、お茶と食事の世話にあたった地元の女性が加わると総勢80人余りになった。
 参加者は9班に分かれ、広田教授によるオリエンテーションのあと、午前中いっぱいかけて、“お宝さがし”を行った。昼食の芋の子汁に舌鼓を打ったあと、午後1時半から撮影してきた写真を使い、「お宝カード」を作成。
 このあと、写真をプロジェクターで投影しながら、班ごとに感想を述べる発表会が開かれ、歴史的資源以外にも個々の目で見た植物や湧水などのお宝が報告された。
 発表会のあと、広田教授は「天気にも恵まれ、いい雰囲気で行っていただきました。本寺の景観は無粋な人工物がないのが特徴で、伝統的な農村のたたずまいをよく残しています。絵図に描かれている神社など有名なもののほかにも、土壁の蔵、さまざまな植物、井戸、湧水など、たくさんの宝が見つかっています。ぜひ、この次は素晴らしい絵地図にまとめてほしいと思います」と講評を述べた。
 地区内全戸に参加を呼びかけ、「お宝さがし」実現にこぎつけた世話人代表の佐藤武雄さんは、1日を振り返り、「興味を持ってくれた人が地元にこんなに大勢いて、とても心強く感じました。これからも地域を見直す活動を続けたい。」と、この日の盛り上がりに興奮気味であった。
 博物館の館長補佐工藤武さんは、「これだけ地域に関わる文化的な属性が多いところはありません。幸い自然環境は、基本的に損なわれていません。この自然環境や日本の原風景を生かした地域づくりをしてほしいと思っています。」と、今後の事業の展開に期待を寄せていた。

●遺跡を保存しながら活性化へつなげる
 平成16年3月、本寺地区地域づくり推進協議会が発足した。この年の6月27日、地元民約90人が参加し、「骨寺村荘園の里 夢語りの会」を開催した。8班に分かれ、2時間半にわたって遺跡周辺を踏査、点検し、参加者からは景観への指摘、案内板の不備などの意見が多数挙がった。
 協議会には、地域おこし・地域営農・土地改良の三つの部会が設けられている。このうち、「夢語りの会」を開いたのは地域おこし部会。年代別に集約した地域アンケートに基づき、遺跡の整備保存を通じた地域活性化に、さまざまな提案を行っている。
 協議会の会長を務める佐藤武雄さんは、「地域のPR方法やグリーンツーリズム、看板の設置、空き家を利用した喫茶店の開業など、350件を超えるアイデアが出ています。本寺地区は世界遺産登録を目指す平泉文化遺産の一連の遺跡の一つとしてコアゾーン候補にもなっており、その制約がある中で、大学の先生の指導を受けながら、活性化に結びつけていきたい。」と抱負を語る。
 事務局長の佐藤勲(かおる)さんは、「すでに後継者のいない農家が出てきており、農地の荒廃が心配です。夢語りだけでなく、できることから始めていきたい。」と決意を新たにしている。

【本寺地区地域づくり推進協議会】
事務局/一関市厳美町字駒形 TEL・FAX.0191-39-2315(佐藤勲)
窓 口/一関市役所農地林務課 TEL.0191-21-8434(菅原正喜)