アドバイザーから


地元学とは



農学博士 岩手大学農学部教授 広田 純一
 
農学博士
岩手大学農学部教授
広田 純一
 
広田純一●東京都出身
専門は農村計画。1990年代後半から地域づくり研究を始め、学生とともに「地元学」の手法を紹介・指導するなど県内各地の地域づくり活動に精力を注いでいる。他に農村地域の生態系保全や景観保全にも関わっている。

 個人の場合もそうですが、「自分は自分」と腹をくくれるかどうかで、大げさに言えば、その後の生き方が大きく違ってくるように思います。いつも他人との比較でしか自分を見ることができない人というのは、本人もくたびれるし、周りの人間を疲れさせます。これに対して「自分は自分」と踏ん切れた人は、自分を卑下することもなければ、高慢な態度に出ることもありません。そういう人は、自分に与えられた能力や機会を最大限活かすよう努力します。良い意味でも分をわきまえた人です。自然と人も寄ってきます。
 地域も同じようなところがあります。「自分は自分」と腹をくくることによって、ないものねだりをしたり、必要以上に自分の地域をさげすむこともなくなります。少しでも地域を良くするために、自分たちにできることを地道に行うようになります。行政を当てにしたり、他の地域をうらやんだりすることが減ります。そういう地域は外から見ても魅力的で、自ずと人が集まるようにもなります。
 地元学とは、地域の人達が「自分は自分」と腹をくくるための方法だと思います。知っているようで実は一番よくわからないのが自分自身であるように、自分の地域というのも、知っているつもりでも実はよくわかっていないものです。地元にあるもの、あったものを丁寧に確認する作業を通じて、地元も捨てたものではないと気づくこと、もっと言えば、そこに暮らしてきた人達の営みや思いを知り、それらが詰まった地元をかけがえのないものと感じることが大切なのだと思います。
 地元学を通じて、自分は自分であり、この地元で生きていくんだと踏ん切りがつけば、地域づくりまでの道はもうすぐそこです。この岩手でがんばろうではありませんか。




いわて地元学のために
 
民俗研究家 結城登美雄
 
民俗研究家
結城登美雄
 
結城登美雄●山形県出身
広告デザイン業界に入り、現在有限会社タス・デザイン室取締役。東北地方の農山漁村を巡り、600の集落を訪ね歩いた。その後、地域の文化や生活を紹介しながら各地で「ないものねだりではなくあるものさがし」の地元学の実践に取り組む。

いわて地元学はどこへ向かっていくのか?そう問われて、岩手県内各地に残る農産物の在来種を思った。地カブ、地大根、地キュウリ…。いつの頃からかその土地の風土になじみ、土地に根づいて暮らしを支えた独特の味と栄養をもつ在来種の野菜たち。その多くは残念ながら都市を中心にしたうわべの商品主義と流通によって姿を消したが、それぞれの地元にはそれを大切に思う人々によって密かに自家採種され育てられ、豊かな食文化を支えている。地元学は、この在来種にどこか似ている。
 この数年、いわて地元学は、この事例集にみられるごとく、各地でたくさんの魅力ある在来種を発見した。さて、その魅力ある種をどう育てるのか。それが問われている。何よりもまず、効率性を強いられて弱ってしまった足元の土を健全にせねばなるまい。しかるのち、ていねいにそれらの種を播く。さて、どんな花が咲き、どんな実りをつけるのか。すべては種をみつけた人々の育てる力にかかっている。水やりを忘れるな!性急に成果をあせるな!とりわけ害虫には気をつけろ!
 その土地を生きてきた人々に学ぶ「地元学」。しかし学びはひとつの始まりであり、終わりではない。知ることの快楽にとどまらず、あなた自身もまたこの地元をよくしていく一人の当事者になれるだろうか?そのために地元学本来の目的である、よい地域にするための7つのテーマを見据えておきたい。

@ 手にした成果(宝)を生かし、地元によい仕事の場いくつもつくること。
A 成果が生きる居住環境を整え直すこと。
B 成果を生かした文化の場を取り戻すこと。
C 実りを生かすための学びの場をつくること。
D 一緒によい地域にするための仲間を増やすこと。
E 改めて地元を支えた自然と風土(水・風・光・土)を健全なものに整え直すこと。
F 数値だけで判断しない、心ある行政とパートナーシップをもつこと。



地元学は出会いのプラットフォーム
 
ローカルジャンクション21事務局 浦嶋裕子
 
ローカルジャンクション21
事務局

浦嶋裕子
 
浦嶋裕子●東京都出身
民間の研究所で地元学手法による持続的な地域づくりをテーマに、地域の振興のあり方を研究。現在はローカル・ジャンクション21の事務局長の他に、コーディネーター、コンサルタントとして日本各地の地域づくりに関わっている。

 地元学は「あるもの探し」を通じて、地域の人たちがコミュニケーションを深めていくことを目的としています。「資源」を見つけ、それをまとめたら終わりというのでなく、探しながら地域の良さに気づき、その「資源」を地域の中でどう生かしていくか、参加者たちが未来を語り合う仲間となっていく過程こそが大切です。実際に、地元学をしているうちに「子どもたちに地域の何を伝えていったらいいか」ということに、自ずと気づいていく例は数多くあります。
 地元学の良いところは、いろんな人がすべて対等な立場で出会えること。いわば出会いのプラットホームみたいなものです。例えば、商店街で地元学を行う場合にも、商店街関係者だけでなく、さまざまな職種や年齢の人が参加することで、これまでの商店街活性化事業では思いつかないような視点やアイデアが自由に出されます。そういう「場」こそ、地域の一番の財産となっていくでしょう。そういう意味で、地元学(あるもの探し)は、地域づくりの特効薬なのではなく、地域の絆をより強くしていく地域の体質改善を促すものだと考えてください。
 「あるもの探し」をし、資源マップを作成したら、次のステップとして、調べた結果をみんなで楽しむ工夫をしてもらいたいと思います。それは公的な大きなイベントなどでなくてもいいのです。子どもたちとオリエンテーリングをするとか、食べ物を持ち寄って語り合うとか、そういう日常的な親睦会で構わないので、いつも「資源」について意識し、話題にしていくきっかけがあれば、いろいろな夢や希望も生まれてくるでしょう。「こんなことやってみたい」というモチベーションがあれば、行政も支援をしてくれますし、リーダーも育っていくと思います。



「いわて地元学」のこれから
 
工学博士 宮城大学事業構想学部教授 山田晴義
 
工学博士
宮城大学事業構想学部教授

山田晴義
 
山田晴義●愛知県出身
地域計画、農村計画、建築計画を専門として、コミュニティビジネス、NPO、市民と行政の協働のまちづくりなどに関する研究成果や著書を発表。現在宮城大学で参加・協働型によるコミュニティ再生とコミュニティ事業形成に関する研究に取り組む。

 「いわて地元学」は、岩手のような自然環境や農山村を多く抱えている地域にとって重要な意味を持っていると言えます。それはわが国だけでなく地球全体が環境とその源となる資源について、問い直さなければならない時に来ているからです。成熟した地域づくりにとって「いわて地元学」は極めて先進的な挑戦だと言えます。
 「いわて地元学」の基本は、人と自然を含む環境との持続性のある関わりの知恵や技術を再発見するところにあります。そして、これらの関係をしっかりと分析し、評価する技法を明らかにする必要があり、そのためのデータベースづくりも大切です。これによって、多くの人たちが学習し共有することが可能になります。しかし、これだけでは不十分で、掘り起こした知恵や技術を活かして、人々のやりがいや生きがいが得られる事業に結びつける必要があります。それは大都市の先端的技術を持つ大企業が扱う事業ではなく、地域の高齢者やお母さん達だからこそ扱える技術に基づく事業なのです。それらのモノや技術を切り取って都会に運んで行ってもさほど魅力はなく、地域の環境のなかで、それらとの関係のなかでこそ価値を発揮するものなのです。さらに、地元学が地域内外の様々な仲間達と一緒に行なわれることにより、コミュニティの力が再生され、育まれるという点でも地域の再生・活性化にとって大きな意味があります。
 「いわて地元学」はそんな世界をつくりあげるための手法であり、農林漁業はもちろん、中小都市圏に含まれる地域が多い岩手での暮らしや第二・三次産業とも共存できますし、むしろプラスの作用も期待できます。このように「いわて地元学」は、岩手県のグランドデザインを描き出していくための計画手法であり、事業手法としてみることが出来ます。その技法を磨くことにより、決して他の地域が真似ることのできない、岩手らしい地域づくりを実現することが出来ます。「いわて地元学」の次の課題は、発見・再生した知恵や技術を人々の行動として起こし、活かす方法を探ることにあるのではないでしょうか。