岩手県内先進企業取材レポート
<第三回目> 滝ノ上温泉/滝ノ上地熱バイナリー発電所
さる10月28日に雫石町で開催された「いわて環境塾第5回目」。この日は、再生可能エネルギーの1種である地熱発電の可能性についてフォーカスを当て、地域で眠るエネルギーの活用方法を学び、地域循環共生圏について考える講座でした。
昨年度、雫石町滝ノ上地区に滝ノ上地熱バイナリー発電所が完成し運転をスタートしました。その発電所に隣接している温泉施設「滝峡荘(りゅうきょうそう)」も同時期にリニューアルオープン。さきにオープンしていた「滝観荘(りゅうかんそう)」とともに、温泉を味わいながら、次世代エネルギーを学べる環境学習にうってつけの場所へと変貌を遂げました。そしてこれらの施設の設計と運営を手掛けているのが、滝ノ上地熱合同会社代表社員の岩岡重樹氏です。
今回の取材レポートでは、岩岡氏の講演で伺った地熱発電の魅力と、滝ノ上地熱バイナリー発電所が目指すものについて、ご紹介したいと思います。
※講義については資料非公開のため、写真も少なめです。ご了承ください。
●地熱発電の魅力について
【岩岡氏の講義の様子】
人間が生活したり生産活動をしたりするうえで、資源、熱、電力といったエネルギーが必要ですが、石炭や石油、天然ガス等の化石燃料を燃焼させて電力を得る方法だと、燃焼によって得られるエネルギーの大半は廃熱ととして捨てられてしまい、少量の電気しか得られないうえに化石燃料の枯渇する懸念や、化石燃料を大量に燃やした際に生じる廃熱や二酸化炭素(CO₂)は大気中に放出されるため、地球温暖化につながってしまうといったマイナスな面をもっています。
そこで、CO₂を排出しないエネルギーである再生可能エネルギーが注目されています。例えば私たちの身近なところにあるエネルギーの地熱を調べてみると、地熱については地面から3m下がった部分の温度はその地域の年間の平均気温度に相当し、冬の寒さの厳しい岩手県でも地中の温度は平均15.4℃もあり十分に地熱の活用ができ、こうしたエネルギーの利用する方法を、温度差エネルギー利用と言います。
最近では多くの住宅に地熱を使った暖冷房設備が普及し始めていますが、紫波町にあるラ・フランス温泉館や八幡平市庁舎などの大きな施設でも、地熱ヒートポンプを使って廃水熱の熱や地熱を効率よく利用して暖房などに利用しています。
また、地熱の利用では地熱を発電に利用する地熱発電所がありますが、地熱発電とはどういった仕組みなのでしょう。
地熱発電の定義について、岩岡氏いわく、「地下1~3kmの地層中の中にあるフラクチャーと呼ばれる岩石のき裂に貯えられている200℃を超える高温高圧の地熱流体を掘削によって取り出し、吹き出した蒸気を利用して発電を行う電力生産方式のこと」であり、発電に必要な熱の供給も地下の地熱貯留層と呼ばれるマグマ起源の熱溜りから利用するので、蒸気を作るための化石燃料も不要であり、化石燃料を使った発電の際に排出されるCO₂も地熱発電ではほとんど生じないというメリットがあります。
一方でデメリットとしては、発電所の開発と建設に時間とコストが掛かる点や、設備の仕組みによっては騒音・振動を発生したり、景観が悪くなったりするなどの問題があげられるとのこと。さらに、なんと地熱を取り出す井戸(生産井:せいさんせい)を掘ることだけでも1億円以上も掛かるといった話もあるようです。
【滝ノ上地熱バイナリー発電所 上の発電所全景の写真は岩岡氏提供】
その一方で、令和5年5月に滝ノ上地区に建設された地熱バイナリー発電所は、従来は未利用だった温泉の廃熱や温泉の湧出に伴う蒸気や温泉余剰熱を利用して発電しています。バイナリー式の発電方法(※下図を参照ください)とは、加熱源としての蒸気・熱水サイクルと代替フロンを用いた媒体サイクルで構成されていて、低沸点媒体を利用することにより発電する方式で、媒体の加熱源に従来方式では利用できない低温の蒸気や熱水を利用することができるのが特徴です。
まさに「温泉地の地熱」を有効活用した発電所ができたといえるでしょう。
【図:バイナリー発電設備 岩岡氏提供】
●温泉郷の再興再生ならびに地域経済活性化を目指して
【写真上:滝ノ上温泉「滝観荘」、下:同「滝狭荘」】
岩岡氏はもともと秘境感漂う滝ノ上温泉が好きで、昔からよく温泉に入浴しに来ていたそうです。
昔、滝ノ上温泉は何軒かの温泉施設が点在する温泉峡でしたが、度重なる豪雨による崖崩れなどの自然災害で道路が不通になったり、東日本大震災の影響を受けたりしていずれも経営不振状況が続き、次第に休業する施設が相次いでいました。そこで1級建築士の資格を持ち、再生可能エネルギーを利用する設備の開発や設計を手掛けていた岩岡氏ならではの地域再生のための構想が生まれます。
滝ノ上地区の温泉施設内に温泉余剰熱を利用する自家発電設備を設置し、エネルギーの自給自足によって経費削減を図ると共に、余剰電力については電力会社を通じて地域の地産地消のエネルギーとして地域に電力を供給しながら売電し、その収益により国立公園宿舎事業の経営安定化を図ることを計画したのです。
【滝狭荘にて】
構想から長い時間をかけて、ようやく今年、本格的に発電所のオープンと温泉施設のリニューアルにこぎつけました。滝ノ上温泉の自然と地域に賦存するエネルギーである地熱を、都市から地方へ人を呼び込む魅力ある観光資源として活用し、温泉郷の再興再生と地元地域の活性化の一翼を目指す岩岡氏の構想は、本年まさに実現へのスタート地点に立ったばかりです。
私たちは自然エネルギーの地熱の活用を学べる自然学習の場としても最適なこの施設を、岩岡氏への応援の想いも込めて、あらゆる方途で活用していきたいものです。
施設見学等のお問い合わせについては下記にて受付していますが、11月中旬から5月中旬まで冬期休業に入りますので、休業明けの時期でのご予約をお待ちしています。
※滝峡荘に通じる県道は冬季間閉鎖のため、例年11月中頃から5月中頃までは冬季休業に入りますのでご注意ください。
【お問い合わせ先】
滝峡荘・滝観荘
住所:岩手県岩手郡雫石町西根高倉山10−27
電話:019-656-6103 019-656-1860
HP: https://info.ryukyoso.com/<外部リンク>
(取材担当:とうげ)
【参考】
◎岩手県の地熱エネルギーについて(岩手県 ホームページ)
⇒https://www.pref.iwate.jp/kurashikankyou/gx/saiene/1067169.html<外部リンク>
◎地熱発電 再生可能エネルギーとは(経済産業省資源エネルギー庁 ホームページ)
⇒https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/renewable/geothermal/index.html<外部リンク>
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