岩手県内先進企業取材レポート
<第六回目>(株)田澤洋紙店
環境に優しい紙製品を通し、地域とともに成長できる企業を目指して
~(株)田澤洋紙店の取組みについてご紹介~
(株)田澤洋紙店は、旧田澤洋紙店として昭和9年に創業したのが前身で、2018年6月に会社分割により新田澤洋紙店を設立しました。現在では、北東北でも有数の老舗洋紙店としてその名が知られています。会社設立当初から現在にいたるまで、地球や職場の環境に配慮した事業活動を意識して行っていることが評価され、2023年度のリデュース・リユース・リサイクル推進功労者等表彰で会長賞を受賞しました。
今回は(株)田澤洋紙店代表取締役社長を務める田中康友さんに、全社的活動として評価された「リデュース・リユース・リサイクル」推進に取り組み始めたきっかけと、具体的な内容、今後の事業展開についてお話を伺いました。
[(株)田澤洋紙店 代表取締役社長 田中康友さん]
◎「リデュース・リユース・リサイクル」推進に取り組み始めたきっかけ
田中さんは紙流通業界でキャリアを積み、2018年に新会社の社長として就任しました。時代はデジタル化が進み、紙の需要も減少し続けているなかでの新出発となり、田中さんは、改めて紙の特性を生かして事業を進めていく必要があると考えていました。
(田中さん)「地方の紙屋さんから、なにか新しいものを発信していきたいと思いました。紙は環境に悪いんじゃないかとか言われてますけど、全然そんなことありません。紙の原料となるセルロースは天然由来の物質であり、土や海に流れたとしてもプラスチックと違い、分解されて再生されます。このように紙は再生可能で、環境に優しい素材なんです。ですので、そこをお客様にわかっていただきながら事業展開していこうと考えました。」
◎リデュース・リユース・リサイクルの具体的な内容について
<リデュース・・・紙の切れ端を新たに商品化した「は紙(し)っこ」>
リデュースの取り組みでは、紙を裁断する時に出る切れ端を集め『は紙(し)っこ』というネーミングをつけて商品化し、販売につなげました。
(田中さん)「今まではこういった紙の切れ端を古紙で処分していたのですが、八戸営業所の女性社員たちが、素敵な紙なのにもったいない!って声を上げてくれまして。紙の切れ端で色・柄・大きさも揃っていないので、ランダムに封入して販売しています。また毎月、あらかじめテーマを設定して選んだ紙と、『は紙(し)っこ』を組み合わせた限定版も、数量限定で販売しています。例えば今月は2月なので、バレンタインをイメージして厳選した淡いピンクやチョコレート色の紙と、『は紙(し)っこ』をセットにしています。毎月進化していて、色んな種類の『は紙(し)っこ』を出しています。この商品をご購入いただいたお客様が、切り絵やペーパーフラワーに創作し弊社まで持ってきて見せてくださることもあって、嬉しいですよね。こんな形でも使われているんだ、とこちらも新たな発見をしたというかね(笑)。このような形で、廃棄物の削減とアップサイクルに取り組んでいます。」
~ 社会貢献企画『あなた紙(し)だい~』も販売中!~ ウクライナや能登半島地震といった現在支援が必要な方々へ、その売り上げ(※半額または全額) を義援金として寄付しています。 紙製品を通して環境への配慮だけではなく、社会貢 献にも寄与したいという芯の通った 企業理念が伝わってきます。 |
<リユース・・・包装紙(ワンプ)を再利用>
リユースの取り組みでは、紙を梱包している包装紙(ワンプ)を再利用しています。包装紙(ワンプ)の裏にラミネート加工されているものは防湿性があるため、お客様への納品の際に使用しており、ラミネート加工していないものは、ゴミ袋として成形し活用されています。
(田中さん)「ゴミ袋としてのポリ袋は極力使わないため、プラスチックごみの削減にもつながっています。もったいないの感性からみんなのアイデアがいろいろ出てきて、こういう取り組みにつながったんです。」
ゴミと思っているものでも、発想を変えるだけで貴重な資源になります。
まさに、紙一重の差で価値を生むことができるんですね。
<リサイクル・・・古紙の分別処理>
リサイクルの取り組みでは、古紙の分別処理を徹底しています。古紙は再生紙の原材料となるため、製紙工場での分別作業が楽にできるように、との配慮が込められています。紙の原料にならない異物が少しでも混入していると、機械の故障や品質低下の一因になるそうです。
(田中さん)「日本は古紙回収率が80%くらいできていて、世界でもトップクラスなんです。しかし現在は製紙工場でも、古紙がなかなか集まらないという声を聞きます。紙はサステナブルに適した素材ですので、分別はきちっとやっていきたいものです。ほかリサイクルの取り組みとしては、弊社でカワトクさん(※盛岡市の老舗デパート)に、既製品のトイレットペーパーを納品しておりますが、数年前にカワトクさんの社内で発生した機密書類を回収して製紙工場に持っていき、トイレットペーパーに再生していただいたものを再びカワトクさんに納品するというサイクルを関係者全員で作り上げました。この一連の流れを『いわて循環物語』と名付け、一例として多くの方にご紹介しています。」
◎今後の事業展開について
[製品作りには社員のセンスが活かされている]
(株)田澤洋紙店は、アイデア豊富な社員の声をしっかり商品作りに反映させ、顧客に喜んでいただくだけではなく、地域や社会にも貢献していこうといった環境理念も制定しています。リサイクル可能で環境に優しい素材としての「紙」を商品として扱っているがゆえに、SDGsの実践についても、「ごく自然で当たり前のこと」と気負うこともなく取り組まれているようにみえます。田中さんに、今後の事業展開について伺いました。
(田中さん)「大きく3点、考えています。1点目には、パッケージ革命を起こしたいです。和菓子等のパッケージデザインは、紙とデザインで大きく売り上げが変わるといわれていますので、そこに積極的に取り組んでいきたいです。2点目には、バルカナイズドファイバーという素材を使った商品をもっと世の中に出したいですね。この素材は、コットンパルプや木材パルプを原料として作られており、地中の微生物により速やかに分解された後自然に還るんです。バルカナイズドとは[薬品処理をする]という意味で、硬く割れにくいのが特徴です。この素材を使って、イヤリングや紙クリップを作りました。」
左の写真は、新商品として制作した盛岡をイメージした紙クリップです。開運橋や岩手山が
丁寧なカッティング技術を用いてデザインされており、盛岡土産として手元に置きたくなる
可愛さです。観光客の方はもとより県外へ転出される方にもお勧めのこの商品は、
3月以降の販売予定です。
※詳しくは(株)田澤洋紙店までお問い合わせください。
(田中さん)「3点目ですが、まだ公表できないのですが大きなプロジェクトを立ち上げようと連携企業様と準備を進めております。紙の事業を通じて、社会貢献できる活動をしていきたいと考えています。近年は弊社のSDGsに関する取り組みが広く知られるようになって、地元岩手の高校生たちが社会科見学等で会社に来てくれるようになったり、弊社の商品をイベントで売りたいと言ってくれるんですよ。本当に嬉しく思っています。このように、紙で人と人をつないで、なおかつ地域社会のお役に立つ活動をこれからもしていきたいですね。」
【お問い合わせ先】
株式会社田澤洋紙店
住所:岩手県盛岡市中野2-15-8
電話:019-624-3355(代)
HP:https://www.tazawapaper.co.jp/<外部リンク>
(取材担当:とうげ)
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※次月号は都合により本連載を休載させていただきます。予めご了承ください。